人々の対話と相互理解を通した「共に生きる社会」の実現へ
~障がい者アートの市民芸術祭「アートパラ深川」での取り組みについて~

2021.04.16

グローバル学部・言語文化研究科日本語コミュニケーション学科

  • グローバル学部 日本語コミュニケーション学科

    神吉 宇一

取り組みについて

この取り組みは、グローバル学部日本語コミュニケーション学科の神吉宇一准教授とゼミ学生4名が、東京都江東区深川地域で202011月に初開催された「アートパラ深川」で行った活動です。

「アートパラ深川」は障がい者アートに触れる機会を提供し、そのアートを通じてさまざまな人が共に生きる共生社会を提案することを目的とした芸術祭です。2019年の秋、地域住民が手弁当で「一般社団法人アートパラ深川」と「アートパラ深川実行委員会」を立ち上げ、東京パラリンピックの開催にあわせ、多くの競技会場がある江東区を障がい者アートの街なか美術館とする芸術祭を実施する計画を始めました。新型コロナウイルス感染症の影響により実施時期や企画内容に変更や制限が生じましたが、20201115日から23日の開催期間中、7万人超が来場しました。

 

取り組むまでの経緯

2019年の9月に神吉ゼミと政治学科後藤新ゼミ、建築学科松田達ゼミ(当時)の三つのゼミが合同で、江東区森下の高橋商店街秋祭りの手伝いをしたことがアートパラ深川に関わるようになったきっかけです。その際、旧知の深川地域在住の方と話をする機会があり、アートパラ深川への協力を打診され、ゼミのプロジェクトの一つとして取り組むことになりました。

取り組みにあたっては日本語コミュニケーション学科の専門性をどのように生かして社会貢献できるかということを中心に、学生たちが主導して取り組みの企画案を作成しました。学生にとっては初めて取り組む大きなイベント企画であり、計画の立て方や予算の考え方、地域の人たちとの連携の取り方など、さまざまな点でチャレンジングな機会になりました。またイベント主催者も第1回目の開催であることから、お互い手探りの部分もあり、企画を進めていく難しさもありました。

当初、神吉ゼミではコミュニティカフェの実施を予定していましたが、コロナ禍の影響により企画を見直し、最終的にはオンラインによる「アート鑑賞ワークショップ」と「アーティスト向けのメッセージ企画」を実施することになりました。「アート鑑賞ワークショップ」実施にあたっては、株式会社フクフクプラスさんのサポートを受け、学生たちは数ヶ月にわたってファシリテーションのトレーニングを行いました。

武蔵野美術大学チームによるカフェのロゴ。 当初はコミュニティカフェを実施する予定で内装デザインやユニフォーム作成等、武蔵野美術大学チームと協力して進行。作成したロゴはオンラインワークショップなどでも使用しました

 

取り組み内容について

◆オンラインアート鑑賞ワークショップ
オンラインアート鑑賞ワークショップは、多様な方法でアートを鑑賞しながら、参加者同士の考え方やものの見方の多様性を学ぶものです。今回は、アートパラ深川の公募展入選作品を使用して、Zoomを使って実施しました。学生は二人一組で、一人がメインファシリテーターを、一人が機器の管理やZoomのテクニカルサポートなどのバックファシリテーターを務めました。

 

ファシリテーションをうまく実施するために、一回の人数は5名に限定しましたが、全国から参加者があり、公募展に出品したアーティストの方やそのご家族も参加してくださいました。
また最終日には、アーティストの小松美羽さんをゲストとして招き、参加者40名ほどの大型ワークショップをオンラインで実施しました。

 

◆アーティスト向けメッセージ企画
コミュニティカフェが中止になったことから、公募展入選アーティストと来場者をつなぐ取り組みとして、オンラインとアートパラ深川会場の二つの場所でアーティスト向けメッセージ集めを行いました。

オンラインは公募展作品の画像をpadlet(オンライン上にメモや写真、アイデアを共有できるツール)にアップして、アーティストや作品に向けたコメントを入力できるようにしました。

padletを応援メッセージサイトとして複数用意し、オンラインでも作品を鑑賞できるようにした

 

 

padlet上で作品を選択すると拡大され、作品名、作者、展示場所が表示される

 

 

各作品の下部に複数人が感想などをコメントでき、続けて表示される

 

 

アートパラ会場では作品を印刷したメッセージカードを作成し、各作品の脇に置いてメッセージを記入してもらうようにしました。

メッセージカードサンプル

 

 

メッセージカードを描く作品の脇に設置した

 

 

最終的にPadletで約150、アートパラ会場で約1500のメッセージを集めることができました。会場で集めたメッセージは全てアーティストに郵送しました。来場者の方からは、以下のような声がありました。

―全国公募展の作品が素晴らしかったです。アーティストへのメッセージカードが置いてあり、その場で書ききれないので沢山のカードを自宅に持ち帰りました。

 

メッセージを伝えたいという気持ちを持った人が多かったようです。中には、途中でカードがなくなってしまった作品もあり、急遽補充を行いました。またアーティストからは、以下のような声がありました。

 

―来場者の方々から沢山の応援メッセージが届きました。「色使いがきれい」「お部屋に飾りたい」「ひとつひとつの包みにどんな物語があるのかわくわくする」「中身は何か想像しながら見れた」「心地よい作品だと思った」などなど。これからも応援して頂けると、やりがいに繋がります。

 

学生たちは双方の声を聞くことで、自分たちが企画し実施した取り組みがアーティストと社会の接点になったこと、また関わった人々の喜びとしあわせにつながったことを実感しました。学生自身が主体的に社会活動に参加し、いまよりもちょっといい社会をつくることに貢献できたことが大きな成果だと思います。

 

◆その他の取り組み
アートパラ深川での取り組みは、上記以外にも多岐に渡りました。
私は学生たちの取り組みに加えて、地域でさまざまな支援活動や地域づくりを行なっている人たちと「フューチャーセッション」というセッションを行いました。私の専門である日本語教育支援をしている人はもちろん、障がい者支援、高齢者支援、企業・起業支援、子ども学習支援など、さまざまな活動を行なっている人たちが集い、相互に問題意識を共有し、アクションを考えました。この取り組みから、江東区での日本語学習支援体制の整備が動き始めました。

 

SDGsにおける「誰一人取り残さない」という基本的理念に対して、本取り組み活動を通して実感したこと

本取り組みを通して、他のゼミ生たちが子どもの学習支援活動を始めることにもつながりました。また障がい者の作業所が作っているお弁当を本学入試課で購入してもらえるようになるなど1つの点だったものが線でつながり、地域連携と地域貢献が少しずつ進み始めています。

アートパラ深川は2021年度以降も続きます。今後さらに地域の人たちとのネットワークを広げ強めることで取り組みを派生させ、SDGsの基本的理念である「誰一人取り残さない」地域づくりをめざしていきたいと考えています。
2020年はコロナ禍のため、学内で本取り組みへの協力呼びかけができませんでしたが、2021年はぜひ教職員や学生による運営ボランティアで協力し関わっていきたいと思います。

担当者

  • グローバル学部 日本語コミュニケーション学科

    准教授

    神吉 宇一

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