旧屋敷林の保全と活用を考える緑化審議会の活動を支援
~西東京市の緑地保全地区の保全活用を題材とした修士制作~

2022.5.9学生の取り組み

取り組みについて

工学研究科建築デザイン専攻修士課程2年生(2022年3月取材当時)村上 まゆきさんが2022年2月17()に池澤 隆史西東京市長に報告した修士制作の取り組みを紹介します。

村上さんは修士制作の題材として西東京市が所有する旧屋敷林(下保谷四丁目特別緑地保全地区)の保全活用に西東京市緑化審議会と連携しながら活動を続けてきました。

村上さんは建築をコミュニケーションそのものと捉え、そのコミュニケーションを誘発するグラフィック(視覚表現)の可能性に取り組んでいます。今回の修士制作は具体のプロジェクトを通じた実践的な活動となり、池澤市長に報告する機会を得ることができました。

 

池澤市長に報告

 

村上さんが旧屋敷林の保全活用にかかわりはじめたきっかけについて教えて下さい

学部生の頃から、岩手県のフィールド研究を題材にしようと思っていましたが、コロナ禍の影響で2年続けて現地に足を運ぶことができませんでした。一方で、建築デザイン学科の伊藤 泰彦教授が関わる活動をサポートする形で、修士課程1年次から西東京市の緑化審議会の活動、すなわち同市の旧屋敷林保全活用の事業に関わりはじめました。

 

村上さんが旧屋敷林保全活用のために取り組んだ活動内容とは?

修士課程1年次と2年次に緑化審議会の会議や調査、市民イベントの企画運営に関わってきました。緑化審議会が西東京市下保谷四丁目特別緑地保全地区の旧屋敷林保全活用計画策定の諮問を受けた時期と重なります。

屋敷林とは屋敷の周囲に防風や防火のために植えた樹林のことで、住環境の調整機能や資材活用の役割があり、人々の生活と密接に結びついています。ただ残念ながら、屋敷林は土地維持の難しさや相続などの問題によりそのまま保全活用されている事例が少ないのが現状です。

そのような中、西東京市の旧屋敷林はきれいに残っていて、緑化審議会と地域住民皆が参加してこの貴重な地域資源をどう残し活用するかを考えていきました。

 

■ 村上さんが取り組んだこと(1)

審議会には市民・ボランティア・専門家・行政といった様々な分野の方が参加します。私は会議体の中で意見を視覚化する試みと、地域住民の方たちと審議会を繋いで具体的なアイディアを発案し提案することに取り組みました。

会議体では主に旧屋敷林の保全のアイディアが議論されます。私は立場の異なる意見を客観的に理解できるよう、グラフィックレコーディングの手法を用いて、会議の話し合いのポイントや白熱した論点をその場で整理して可視化し、会議参加者が振り返りを行いながら議論を深めていけるようにしました。

 

会議中に村上さんが書いたグラフィックレコーディング

 

■ 村上さんが取り組んだこと(2)

一方で、旧屋敷林の活用については、「地域住民の方たちがこの場所をどう活用したいか、子どものアイディアも拾える方法でヒアリングしたい」という要望があったので、普通のアンケート用紙ではなく、木の葉の形をしたアンケート紙を使った「対話型記述式アンケート」を発案しました。

こうして集めた地域住民の方々のニーズをグラフィックに示し、審議会に提示し、さらに審議会からのフィードバックを広報誌に掲載することによって、地域住民の方たちと審議会の方たちの良好なコミュニケーションを構築することができました。

 

木の葉の形をした「対話型記述式アンケート」

 

地域住民の方々の声を取り入れながら、今ある良さを残しつつ、安全も確保しつつ、保全も考えた具体的な提案をまとめていくことができたと思います。

 

村上さんが考案した旧屋敷林の保全活用案について教えてください

私は、建築をコミュニケーションそのものと捉え、目に見えないコミュニケーションという情報を目に見えるものにデザインすることに取り組んでいます。今回の旧屋敷林の保全活用も、審議会や地域住民の方々とのコミュニケーションの上にこそ成り立つと考え、子どもから大人まで様々な方々から情報収集をし、審議会の資料に反映させ、それらのアイディアをまとめて、具体的な旧屋敷林の保全活用方法を市長に提案しました。

 

村上さんが作成した旧屋敷林全体の保全活用未来図の提案書 (保全のアイディアは、活用のアイディアは

今回の取り組みは、地域資源を守り、活用するという観点から、SDGs目標「12.つくる責任 つかう責任」「15.陸の豊かさを守ろう」に該当します。一方で、市や地域住民の方々はSDGs目標に該当するか否かにかかわらず、以前より「地域資源の保全活用は当然すべき取り組み」と認識して取り組んできました。

 

 

法規的制約によって緑地保全地区では新築ができないなど制約が大きいのですが、子ども達も楽しめる図書館、展示室、お泊り体験室、遊び場、勉強ツアーなど新しいアイディアを取り入れつつ、今まで通り地域の方々が憩いの場や散歩などを楽しめる環境も残していきたいと考えています。

 

村上さんが作成した旧屋敷林母屋の保全活用未来図の提案書

 

今回、今ある良さを残しつつ、安全も確保した持続可能な具体的提案として旧屋敷林保全活用計画を池澤市長に報告しました。また、行政・専門家・ボランティア・市民が共有できる具体的な保全活用のイメージとして、市が発行するフリーペーパーに掲載予定です。

目に見えなかった地域住民の方たちの意見(思い)や審議会の方たちとのコミュニケーションを目に見える形で繋いでいき、具体的な保全活用計画の策定に貢献でき、大変うれしく思うと同時に、どのように実現されていくのか、今後楽しみにしています。

※本取材は2022年3月に実施しました。

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