学生によるSDGsの取り組み~障がいのある人とない人とのコミュニケーションツールを開発する「触覚デザイナー」という取り組みについて~

2022.3.23学生の取り組み

取り組みについて

この取り組みは、通信教育部人間科学部人間科学科の学生であり、先天性盲ろう者である田畑 快仁さんが取り組んでいる活動です。

田畑さんは社会福祉士を目指して大学で学びながら「触覚デザイナー」としても活動しています。

その他、マラソン、2人乗りのタンデム自転車などを趣味としているなど、障がいの限界にとらわれることなく、挑戦を続けています。

 

盲ろう者が楽しめるスポーツのコミュニケーションウェアラブル指点字ツール(写真左)を用いてタンデム自転車を楽しむ

 

田畑さんが考えるSDGsにおける「触覚デザイナー」の役割について紹介します。

 

取り組みの経緯

田畑さんは、将来、障がい者や高齢者のコミュニケーションに支援が必要な人々の助けになりたいと考え、通信教育部で社会福祉を学び(取材時)、盲ろう者だからこそできる社会参加を模索しながら活動しています。

 

大学2年生の時に、インタープリター(解釈者)として活動している和田 夏実さんの展示会に行き、その際に和田さんと触手話(※1)で触覚についてディスカッションをし、意気投合したのをきっかけに和田さんと、和田さんの友人でありコミュニケーションデザイナーでもある高橋 鴻介さんと一緒に「たばたはやと+magnet」(※2)として、触覚デザイナーの活動を始めることにしました。

 

田畑さん自身も、障がいの有無にかかわらず誰もが楽しめるような、さわったり、ふれたりする触覚のサインシステムを、空港や駅、街のさまざまな場所に作っていきたいと考えていました。

そこで「たばたはやと+magnet」は「LINKAGE(リンケージ)」や「たっちまっち」という触覚を通して楽しめるツールを開発しました。

 

※1 触手話とは、手話の見えない盲ろうの方が、手話を手で触って読み取る方法

※2 和田さんと高橋さんはmagnetとして活動している

 

取り組み内容

田畑さんが和田さん、高橋さんと一緒に「たばたはやと+magnet」として、開発した「たっちまっち」「LINKAGE」「触覚のオープンデザインプロジェクト」について紹介します。

 

たっちまっち

凸凹の模様がついているカードです。模様の違う7種類×2枚と、もう1枚模様の違うカードが計15枚あり、触れることでカードの違いを判別できるので、ババぬきや神経衰弱といったゲームを、目の見えない人と見える人が障がいの有無を超えて一緒に楽しむことができます。

 

※『幼稚園』2020年3月号、『ぺぱぷんたす』004の付録として発売

 

「たっちまっち」の制作過程では、さまざまな触覚のプロトタイプ(原型)となるパターン(模様)を和田さん、高橋さんで出力し、触覚デザイナーとして田畑さんが実際に触れて、触覚に関するアイデアや感覚、そこから見える世界をもとに選んだパターンをカードにしました。

 

例えば、「たっちまっち」のカードの中にある「雪のようなドットの模様は、ボタンみたいな感覚がある」、「波線は雨のように感じられるのでは」というような、どの感覚がどういう形になるのか、それがどのようにつながるとどんな体験ができるのか等、触覚から得られる情報や、そこからつながる体験について、触覚デザイナーとしての田畑さんの感覚が反映されています。

 

 

 

 

LINKAGE

「触手話」というコミュニケーション方法に着想を得てつくられた、カードの指示に合わせて、崩れないように棒で指同士をつないでいく触覚コミュニケーションゲームです。

 人と人とのあいだを言葉や音でなく、ものでつなぐという新しいルールを作ることで、誰とでもお互いの力やかすかな質感、その人らしさを感じながらコミュニケーションをはかることができます。

 

 

 

 

触覚のオープンデザインプロジェクト「HAPTIC OPEN LAB」

アーツコミッション・ヨコハマ(略称:ACY、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団運営)が実施する「2021年度 クリエイティブ・インクルージョン活動助成」事業に採択されている、触覚を使う豊かさや面白さを、多くの人に広く知ってもらうようなデザインプロジェクトです。内容は以下のとおりです。

・田畑さんの触覚の世界認識(触手話・弱視手話・指点字など)を実際に参加者が追体験するワークショップの開催

・「さわる展示のミュージアム」での触覚のリサーチ

・触覚デザイナーとしての活動に関する執筆

・誰もが楽しめるサインシステムの開発・実装への取組 など

 

ワークショップの様子

 

目隠しをし、触覚を通しての世界を再認識する

 

参加者一人ひとりが触覚の記憶をたどり、山や海などのイメージを様々な触覚の素材で作り、その記憶やイメージについて語り合った

 

 

SDGsにおける「触覚デザイナー」の今後の役割について

田畑さん:

私が目指す「触覚デザイナー」とは、触覚(さわる・ふれる)という視点で、障がいの有無にかかわらず誰もが楽しめるものをつくることです。触覚の活動を通して、具体的にどのような課題が解決できるのか、まだまだ説明がつかないことも多いのですが、触覚を使って誰もが楽しめるようなサインシステムを作ってバリアフリーの課題を一つでも乗り越えていくことが、さまざまな社会課題の解決にも繋がるのではないかと考えています。

触覚の活動も、多様な障がいを持つ方々に対して、SDGsの目標「10.人や国の不平等をなくそう」にある不平等となる格差の是正や「11.住み続けられるまちづくりを」のために障がいのある方も安心して暮らせる安全な街づくりを目指してやっていくことが大切です。

それらが結果的に障がいの有無に関係なく、みなさんが幸せに生活ができる社会になっていくのだと思います。今後も触覚に関するアイデアや感覚、その感覚から見える世界を、さまざまな人々とともにアウトプット、共有していきたいと思います 。

 

 

※本記事は手話通訳者を介して、20222月に取材を行ったものです

 

さいごに

● 福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」:https://co-coco.jp/index/hayato_tabata/

● LINKAGE:http://linkage.games/

● アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)(公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団運営):https://acy.yafjp.org/support_programs/2021/62877/

● 小学館ホームページ:https://sho.jp/youchien/48734#profile

● 高橋鴻介さんホームページ:https://ootori.co/linkage

● 和田夏実さんホームページ:https://www.signed.site/

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