互いに支え合う生きやすい社会を目指して
~自殺予防のためのゲートキーパー養成に向けたオンデマンド研修資材開発について~

2022.03.01

人間科学部・人間社会研究科社会福祉学科

  • 人間科学部 社会福祉科

    小髙 真美

自殺予防のためのゲートキーパーとは?

この取り組みは、人間科学部社会福祉学科の小髙 真美 准教授が現在取り組んでいる研究です。

自殺予防のためのゲートキーパーとは、自殺のリスクを抱えた人々に気づき適切にかかわる人のことをいいます。自殺に至る原因は、心理的、社会的問題や生活上の問題、健康上の問題など複数が絡み合い、人によってさまざまです。

自殺対策では、悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して「孤独・孤立」を防ぎ、支援することが重要です。ゲートキーパーとして活動するために特別な資格は必要ありません。地域のかかりつけの医師や保健師などをはじめ、行政や関係機関、ボランティア、家族や同僚、友人といったさまざまな立場の人たちがゲートキーパーの役割を担うこと、誰か特別な人ではなく私たち一人ひとりが「ゲートキーパー」となることが期待されています。

 

取り組みへの経緯

数年前、全国の自治体ではどの程度、自殺予防のためのゲートキーパーを養成する研修が行われているのかを明らかにする調査を行いました。その結果、都道府県や政令指定都市では、ほぼ100パーセントに近い自治体が研修を毎年行っていること、一方でその内容が標準化されていないことがわかりました。

標準化されていないということは、本当にゲートキーパーとして必要な知識やスキルを身につけるための研修内容が提供されているのだろうかと疑問を抱いたことが、この取り組みへのきっかけとなりました。研修内容にばらつきがあると、研修の効果を一定の基準で評価することも難しくなります。

 

取り組み内容について

◆ゲートキーパー研修のオンデマンド化について

はじめは対面研修の標準化を考えました。ゲートキーパーとして必要な知識・スキルを抽出するため、この領域のエキスパート(専門家)にデルファイ法(※)という手法を用いて調査をし、その方々のコンセンサスのもと、ゲートキーパーに必要な最小限の知識やスキルだと考えられるものを抽出しました。

※対象のテーマや設問について参加者に個別に回答してもらい、得られた結果をフィードバックして他の参加者の意見を見てもらった後、再度同じテーマについて回答してもらうこと

 

さらにその研究をベースに組み立てた研修を、いくつかの自治体で実施し、研修前と後の受講者の知識やスキルについて測定して比較することで、研修の効果を検討しました。研修には一定の効果があることを確認し、まずは自殺予防のためのゲートキーパーとして、最低最小限の知識とスキルを身につけるための科学的根拠に基づいた研修内容を構築しました。

 

そして今回、コロナ禍において対面研修が難しくなったことで、非対面で研修が受けられるオンデマンド研修が有用だと考え、オンデマンド用の研修資材を制作しました。

 

 

◆オンデマンド研修の内容について

今回、開発したオンデマンド研修は、気軽に「ちょっと見てみようか」と思っていただけるように、全体の動画を30分程度におさえています。

そのため、動画を見ただけで自殺予防に対しての知識がすごく増える、スキルに自信がつくといった内容よりも、「ゲートキーパー」というものを理解してもらい、「私にもできそう」と、まず最初の一歩を踏み出してもらうことに重きを置いています。

 


 

 

オンデマンド動画では対応例をわかりやすく説明している

 

 

武蔵野大学院生(左)の協力も得て、オンデマンド動画を制作した

 

自殺の問題は、特別な人に起きるわけではありません。「誰にでも起こりうることなんじゃないか」「誰にでも自殺を考えている人に巡り合うことがあるんじゃないか」という意識づけをオンデマンド研修によって図れればと考えています。

 

自殺予防のためのゲートキーパーを養成することは、深刻な悩みを抱えた人たちを一人で責任を負って支援するのではなく、みんなで協力し合える支援体制を作るための一つの方法です。どんなに支援をしたとしても自殺は100パーセント防ぐことができない場合もあります。その点も踏まえ、自分自身のケアや、自殺で大切な人を失った方への支援も重要であることも、研修の中でメッセージとして伝えています。

 

SDGsにおける「自殺予防のためのゲートキーパー研修のオンデマンド化」の役割について

今回の取り組みは、SDGsの「3.すべての人に健康と福祉を」にあたります。生きやすい社会をつくるという意味でいえば「誰一人とり残さない」というSDGsへの取り組みそのものが自殺対策につながるでしょう。

 

  

 

厚労省の調査*では、4人に1人くらいは「人生の中で一度は死にたいと思ったことがある」と答えています。死にたいと思うこと自体が問題なのではなく、死にたいと思った人がそれを言えない、言ったとしても受け止められない社会自体が問題なのではないのでしょうか。

もちろん、このゲートキーパー研修だけで、自殺者を劇的に減らすことができるとは思いません。人々の生きづらさに気づいて適切に関わる人を一人ずつ増やしていくことが大切だと考えます。ゲートキーパーの役割を果たした人が、次は反対に悩みを打ち明ける立場になることもあるでしょう。ですから先に述べた通り、私たち一人ひとりが「ゲートキーパー」なのです。

今後、ゲートキーパー研修を通して最低限の知識がちゃんと増えるのか、何か問題は起きないのか、その有用性をみながら、受講者のゲートキーパーとしての行動変容も視野に入れた調査へ展開を進めていきたいと考えています。

 

さいごに

相談機関などはこちらから検索できます。

厚生労働省:自殺対策 相談先一覧:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html

担当者

  • 人間科学部 社会福祉科

    准教授

    小髙 真美

一覧に戻る

  • SDGsカテゴリ一覧
  • 学部・研究科一覧
  • 担当者一覧