東京・銀座における既存都市ストックを活用した空間活用の社会実験「ほっとスポット銀座」

取り組みについて

工学部建築デザイン学科の宮下貴裕助教が主宰する武蔵野大学都市学研究体（工学部建築デザイン学科1年生～3年生計29名）が、学科プロジェクト「都市でACT！」の一環として、東京・銀座の既存都市空間を活用する社会実験「ほっとスポット銀座」を実施しました。

日本を代表する商業地である銀座は、歴史ある商店や高級ブランド店が集積する一方で、歴史ある路地や横丁も多く現存するなど、様々な文化が蓄積した多様性の高い街です。今も昔も多くの人を惹きつける魅力的な街ですが、以前からオープンスペースの不足や快適な歩行者空間の不足が指摘され、自動車に依存しない歩いて楽しいまちづくりを目指す上で課題も多く見られました。

そこで今回、街なかに存在する既存空間を魅力的に活用し、銀座の都市環境が持つポテンシャルを発信することで新たなまちづくりのアプローチを提案する社会実験を企画しました。

取り組みの経緯

宮下助教は以前よりヒューリック株式会社・株式会社小林・槇デザインワークショップ（KMDW）とともに、銀座が有する課題を解決しウォーカブルな都市環境の実現に貢献することを目指す共同研究「GINZA NEXTプロジェクト」に取り組んできました。今回はそのプログラムの一部として、銀座ファーストビルと銀座二丁目ビルの公開空地、HULIC &New GINZA NAMIKI 6の1階未利用空間において、学生メンバーが制作したファニチャーの設置と街歩きガイドマップの配布を行いました。

3つの敷地のうち2カ所は公開空地でしたが、東京都との協議の末、公開空地本来の機能をより高めるためのアクションであることから、占用許可を申請せずに実施して構わないとの反応をいただき、公共空間活用の柔軟性が高まっていると実感させられました。

取り組みの内容

■銀座ファーストビル公開空地

本来誰でも利用できる公開空地ですが、通りを歩く歩行者の数が少なく、広場にはカラーコーンも張り巡らされ、利用者はほとんど見られない場所でした。そこで、来街者が自由に動かしながら使える椅子とテーブルの設置によって滞留機能を生み出し、通りに新たなアクティビティを創出するための仕掛けを構想しました。また、近年街なかからゴミ箱が消えたことでポイ捨てが多く見られるようになったことを踏まえ、来街者が楽しみながらゴミ箱を利用することで都市環境の美化につなげることを目的としたアンケート式ゴミ箱を制作しました。今回は社会実験に対する2択と3択の質問を設け、それぞれの答えが記されたゴミ箱にゴミを捨ててもらうことで、利用者からのフィードバックを得られるよう工夫しました。

■銀座二丁目ビル公開空地

ファーストビルと同様、普段は利用者が少ない場所でしたが、歩行者通行量が多いことから歩道の一部のように利用する人の姿が散見されていました。そこで、歩行空間としての機能は保ちつつ滞留機能も生み出すようなベンチを制作しました。利用者はベンチの高さを自由に変えることができ、車椅子の方も利用できるテーブルをあわせて設置することでユニバーサル性の高い広場のデザインを目指しました。

■HULIC &New GINZA NAMIKI ６

オープンしたばかりのビルの1階部分にある小さな未利用スペースを活用し、ベンチの設置と街歩きマップの配布を行いました。ビルが立地する並木通りは高級ブランドの旗艦店が軒を連ねる銀座を代表する場所ですが、気軽に休憩できるスペースが無いという問題がありました。今回は買い物に訪れた人々が気軽に腰を下ろせる場所を生み出すことで、このエリアがもっているポテンシャルのさらなる向上に貢献したいと考え、周辺環境と調和した品格の高さと機能性を兼ね備えたベンチを制作しました。

取り組みの成果

成熟社会におけるまちづくりでは、新しい空間を生み出すだけでなく、現在の都市環境に存在するストックのポテンシャルを見出し、それらを有効に活用することで街の価値を高めていくというアプローチの重要性が指摘されています。今回の社会実験では、空間としては存在していたものの有効な利用がなされていなかった場所に注目して魅力的な活用方法を提案することで、来街者や地元の皆様に街の新しい可能性を感じてもらえたのではないかと考えています。

学生にとっては企画時の意図や想定に対して、実際の利用がどのようになるかをその場での確認できる貴重な機会となり、これから空間デザインに携わっていく立場として求められる姿勢や態度を、改めて考えさせられたのではないかと感じています。

関連リンク

武蔵野大学都市学研究体：https://www.urbanismlab.net/