墨東特別支援学校と連携したキャリア教育
「わくわくプロジェクト」の取り組みについて
2022.05.11
グローバル学部・言語文化研究科日本語コミュニケーション学科
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グローバル学部 日本語コミュニケーション学科
神吉 宇一
取り組みについて
グローバル学部日本語コミュニケーション学科の神吉 宇一准教授と本学学生4名が有明キャンパスで実施した東京都立墨東特別支援学校の生徒3年生9名に向けたキャリア教育『わくわくプロジェクト』の活動を紹介します。
今回のキャリア教育活動は、2020年から神吉ゼミが取り組んでいる障がい者アートの市民芸術祭「アートパラ深川」のつながりから実現したものです。
取り組むまでの経緯
2021年10月末に神吉ゼミの学生が、コロナ禍により校外学習等がすべて中止になっていた墨東特別支援学校の高等部3年生をアートパラ深川に招き、アートパラ深川の実行委員と学生たちで芸術祭の紹介・引率等を行いました。
それをきっかけに、大学とさらに連携した取り組みや教育を実施したいという墨東特別支援学校長の強い想いをうけて、神吉ゼミの学生4名が中心となって生徒たちへのキャリア教育の企画・運営を行いました。
取り組み内容について
■ わくわくプロジェクトのプログラム企画
墨東特別支援学校は、大学進学を考えている生徒から重度の障がいを持つ生徒まで、さまざまな生徒のいる学校です。アートパラ深川の校外学習後、双方の教員で「継続して何かやっていきたい」という話をしました。そのときに、関係者の一部が一方的に何かを与えたり支援したりするのではなく、関わるみんなが相互に学び合えるような取り組みにすることを確認しました。
そして、大学という場を絡めて何かできないかという話になり、キャリア教育という視点から、生徒たちが日常ではあまり触れることのない大学を校外学習の場に設定しました。また高校3年生が大学を訪問し、その様子を他学年に伝える発表会を行うことを活動のゴールとして設定しました。
本学の学生たちは定期的に墨東特別支援学校を訪問し、交流を通して生徒たちとのコミュニケーションの取り方を学ぶとともに、生徒たちのことを知り、どのような大学訪問プログラムを行うと双方にとって意味のある活動になるか考えました。
墨東特別支援学校の生徒たちがわくわく感を持って大学訪問を行ってくれるよう、学生たちがこの取り組みに「わくわくプロジェクト」という名前をつけました。
墨東特別支援学校の訪問時には先生方から交流活動の前に1時間講義をしていただき、学生たちは障がいや特別支援教育について基礎的なことを学びました。交流活動の内容は、学生たちが自ら考えて実施しました。交流の様子を毎回動画に記録し、終了後に見返して振り返ることで、生徒たちの反応や墨東特別支援学校の先生方の様子から障がいのある生徒への接し方、コミュニケーションの取り方、指示の出し方などを学びました。
■「パンフレットの作成」
学生たちは、事前の交流活動でさまざまな取り組みを行いました。その一つがパンフレットの作成です。
大学訪問日に生徒たちがこの企画の主体的な参加者になれるよう、生徒たちの手描きのイラストを含めたパンフレットを作成して配付しました。また、留学生との交流の時間に生徒たちが質問したいことを、事前にまとめているページも作成しました。
■「キャンパスツアー」
当日は学生による有明キャンパスツアーを実施しました。学生がどのような施設でどのようにして学んでいるのかを生徒たちに説明し、大学での学びの様子を体感できるようにしました。6号館の見学では、看護学科の田中 笑子講師が施設や機器の説明をしました。
また、環境システム学科生の「環境プロジェクト」の授業で無農薬野菜や薬草を栽培している3号館屋上の畑を見学し、生徒たちは野菜収穫も体験しました。
■「LOHASカフェでの昼食」
昼食は、有明キャンパス内にあるLOHASカフェでとりました。LOHASカフェは3号館屋上の畑で持続可能な農業にも取り組んでいます。
店長の足立 恵介さんには、普通食が食べられない生徒のために特別メニューで和風おじやを作っていただきました。メニューは、あらかじめお伝えして準備してもらっていましたが、社会活動を経験するため、当日は生徒一人ひとりが券売機で食券を買うことにチャレンジしました。
生徒によっては、食券を1枚買うのに何分もかかります。生徒が8人いたため全員が食券を買うのに20分ほどかかりましたが、生徒にとってはとてもよい経験になりました。またその間、昼食をとりにきていた何名かの職員の方がじっと待っていてくださったのがとても印象に残りました。
■「留学生との交流」
出身の異なる3人の留学生と2グループに分かれ、約1時間の交流会を行いました。
自国の文化(食べ物、服装、行事等)や日本に来日してから驚いたことに関する質問、両国に共通する人気アニメキャラクターやテーマパーク等の話題で盛り上がりました。また日本と他国の違いについて話し合っていたグループもありました。時折タブレットで写真をみせながら和気あいあいとした異文化交流になりました。
生徒たちはこの訪問の発表会を2022年3月に校内で行いました。
この取り組みをふりかえって
神吉准教授:
本活動の成果はいろいろな観点から考えられますが、特によかったのは、墨東特別支援学校の先生と常に連絡をとりながら生徒と学生それぞれが双方向的に学べるように取り組めたことだと思います。
「できる人」が「できない人」を助けるというのは、一見よいことのように思えます。しかしそこには、「できる/できない」という関係性を固定化し、場合によっては「できないとされている人」が持つ可能性を見えづらくしたり、その芽を摘んでしまったりする怖さもあります。
SDGsには17の目標がありますが、私は基盤にある「誰一人取り残さない社会」という本質的な価値から常にブレないことが重要だと考えています。今回の取り組みは、この価値を実現するための小さな事例の一つになると思います。
もう一点、学生たちが「なぜ」「なんのために」これをやるのかという根っこにある問題意識と常に向き合ってくれたこともよかった点だと思います。生徒たちがより深く・楽しく学ぶための大学訪問企画を実現するという目標からブレずに取り組むことができました。
私たちはしばしば「どのように」やるかという手法のことにのみ目がいってしまいますが、学生たち自身がゴールを明確にしながら取り組んだことで、「どのように」を常に「なんのために」と関係づけながら取り組むことができました。
ゼミ活動では、コミュニケーションを通して今よりもちょっとよい社会をつくることをめざしています。今回の取り組みによって、今まで接点を持つことがなかった生徒と学生がそれぞれ知り合い、長い人生の中では一瞬のことかもしれませんが、共に活動を行い学び合うことができました。このことは小さなことですが、共に生きる社会をつくりだす一歩になったと言えると思います。
今回の企画を実現する上で、学内のさまざまな部署・学科の教職員のみなさん、ロハスカフェ有明、墨東特別支援学校の先生方や保護者の方々にお世話になりました。本当にありがとうございました。
墨東特別支援学校 石橋 恵美子先生・冨沢 聖子先生:
神吉ゼミとの交流は、2020年の「第1回アートパラ深川」から始まりました。残念ながら当時はコロナ禍の真っ只中で、計画していた大学生の皆さんと本校生徒との交流は実現しませんでしたが、“オンラインで生徒が芸術祭に参加する”という初めての試みを行い、神吉先生には本校の教室から進行を支えていただきました。今年度の神吉ゼミの皆さんとの直接的な交流は、そこからの二年越しの企画ということになります。
『アートパラ深川を見に行こう』という第一弾の交流は、長く校外へ出かけることのできなかった生徒たちにとっては、“憧れの大学生と一緒に”ということで二重三重に期待が膨らむ取組みとなりました。当日の活動を終え、「楽しかった」「また会いたい」……学生の皆さんにも、本校の生徒にもおそらくこのような共通の思いが生まれたのではないかと思います。この成功体験が第二弾の『大学探検』の企画につながりました。
生徒たちにとっては、日頃接することのない色々な方との付き合い方や話し方を直に学ぶ機会となりました。また、今まで自分たちが通ってきた「学校」との違いを肌で感じ、「大学」とは専門的な分野を学ぶ場所であることを改めて知ることもできました。
コロナ禍で様々な行事が中止となる中、武蔵野大学の皆さんとの交流が発展し、このような体験ができたことは、卒業を目前にした生徒たちにとって、とても良い思い出となりました。
今回の交流では、学生の皆さんがホスト役となることが多くありましたが、終始真摯な態度で企画・実行をしてくださいました。
丁寧に振り返りを行い、次の企画につなげることでホストとしてより良い活動にしようとしていることがうかがえました。
しかしそれは、本校の生徒が「障がい者だから」ではなく、「相手の笑顔が見たい」というとても純粋なホスピタリティであったと感じます。会話を楽しめる生徒はもちろんのこと、言葉では表出ができない生徒ともコミュニケーションをとるにはどうすればよいかと私たちに質問することも度々ありました。
自分たちの企画を実現するためには、その工夫と努力が必要不可欠であるということを皆さん自身が感じており、そこに計算やお仕着せ(上方から一方的に与えられること)ではない合理的配慮が実現したのだと思います。戸惑いも多かったと思いますが、回を追うごとにスムーズになるやりとりを見ていると、それぞれに自身の成長や達成感を実感できたのではないかと感じました。
神吉ゼミの皆さんが日頃から多様性を受け入れる姿勢を身に付け、生徒たちを一個人として初めから認めていたからこそ、
この短期間でも互いに気づきを得ることができ、またその気づきを共有できたのだと思います。
この間、神吉先生とは打ち合わせを重ね、学生の皆さんは今回の取り組みを通してどのような学びを求めているのか、生徒にどのような活動を提供したいのかなど、お互いの学生・生徒の気づきや学び、そして教員としての思いを話し合ってきました。
このことも、時間と場を両者がただ共有するだけの「交流」ではなく、学生の皆さんが自ら学びを深め、本校の生徒にとっても自分なりの“できた”を感じられる貴重な機会となった一因であったと思います。以降もよりよい形を目指し、この取組みを続けていきたいです。
私たち教員の一番の願いは、生徒たちが「社会との接点」をもつことでした。今回の活動を通して、「人と話し、外の世界に触れることは心地よいこと」であり、自分にも「進んで社会に出ていく力」があるのだと、それぞれの生徒なりに感じとることができたのではないかと思っています。
多くの方々にご理解とご協力をいただき、生徒たちが主体的に体験できる形でこの交流を実施できたことに感謝しています。
さいごに
■ 本学学生たちの感想
チョウ カレナさん:
最初は、とても緊張しました。どうやって話したらいいのか、コミュニケーションがとれるか心配していましたが、生徒のみなさんがとても明るく話しやすかったです。
天野 莉桜子さん:
今回、初めて先生がいないときに車いすの生徒と2人だけで行動する時間がありました。以前であれば、その生徒がどう思っているのか、何がしたいのかわからなかったのですが、今日は今まで学んだコミュニケーションの取り方を応用できてコミュニケーションをとることができ、達成感を感じました。もっとブラッシュアップして実施できれば良かったとも思いました。
濱田 夏帆さん:
生徒たちが喜んでくれていたのが印象的でした。今までの準備期間を通じて、ちょっとした動きから生徒たちが喜んで楽しんでくれているのが自身でもわかるようになったので、実施してよかったと感じました。時間が早く感じたので、また実施したいです。
交流に参加した留学生:
特別支援学校の生徒からの質問がとてもおもしろかったです。虫やキャラクター、日本の小学校の文化に関連した質問もありました。異文化について興味持っている生徒もいて、もっと一人ひとりと話をして仲良くなりたいと感じました。
■メンバー紹介:
グローバル学部日本語コミュニケーション学科3年生(2021年度)
チョウ カレナ、天野 莉桜子、濱田 夏帆、宮保 知永
※本取り組みにあたっては、武蔵野大学しあわせ研究所からしあわせ研究費の助成のもと実施しました。
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